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2021.03.19

【コラム】薬剤部より~漢方彩々 2021年 春号~

 暖かな陽気に桜の開花も進み、春の気配がそこかしこに感じられるようになりました。厳しい冬を乗り越え陽春に手が届いた方も、まだ少し風の冷たさに震えておられる方も、さまざまな想いを抱えてこの春を迎えられることと思います。
 先の見えない状況が続く中でも、新しい花の季節の到来は明るく穏やかに気持ちを解きほぐしてくれるものです。
 今月は、ちょうどこれから花の盛りが訪れるこちらの生薬をご紹介いたします。

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アンズの花

杏仁

和名:アンズ
学名:Prunus armeniaca
バラ科サクラ属、ヒマラヤ西部などが原産の落葉小高木。春(3月から4月頃)に淡紅色の花をつける。果実の収穫期は6月下旬から7月にかけて。生のまま食用にするほか、干しアンズやジャムなどに加工される。
生薬名:杏仁(キョウニン)

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 アンズの実は生食する果物としてはあまりメジャーなほうではないかもしれませんが、スフレチーズケーキの表面に照りを出すためのアプリコットジャム、中華風デザートの杏仁豆腐など、加工品としては意外と馴染み深い方も多いのではないでしょうか。

 バラ科サクラ属のアンズは、ちょうど暖かくなってきた3月の半ば、ソメイヨシノより一足早く桜によく似た花を咲かせます。桜と同じく、花が終わると新しい葉が出て、秋には落葉します。写真でもわかるようにアンズは白に近い淡い色の花を咲かせますが、花びらの外側の「がく」が濃く鮮やかな紅色をしており、花の時期には全体が赤みがかっているようにも見えます。また、桜やウメなどと違い、がくが花に沿わずに反り返るのも特徴です。

核果の断面図

 果実の成熟期は夏の初め、6月~7月頃です。黄色く熟したアンズの中心部には大きな種(核)がひとつあります。アンズの種には青酸配糖体「アミグダリン」という物質が多く含まれています。これが分解されると【ベンズアルデヒド】(独特の甘い香りのもと)、【青酸】(推理小説やドラマでおなじみの有毒成分)、【糖】(グルコースなど)ができます。同じバラ科植物のウメやモモ、ビワなども同じくアミグダリンやプルナシンという青酸配糖体を多く含みます。

 果実が熟していく過程で分解が進むと含有量も減ってくるため、私たちがアンズの実を食用に供する際にはさほど心配はありません。ただし、これらの分解反応はヒトの体内でも進むため、熟れる前の青い果実を生のまま食べたり、極端に大量摂取したりすると青酸中毒を招く恐れがあるので注意が必要です。

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 漢方の世界では、アンズの種を割り、中の種子、つまり仁(じん)を取り出して乾燥させたものを杏仁(キョウニン)として用います。杏仁には鎮咳去痰作用があり、主に咳止め薬として使用されます。代表的な漢方薬に、麻杏甘石湯、神秘湯、五虎湯などがあります。

 中華料理のデザートとして馴染み深い杏仁豆腐も、もとは咳止めのおくすりを服用しやすい形にした薬膳料理のひとつです。同じバラ科サクラ属の植物のうち、アンズ、モモ、ウメなどは果肉を食用にしますが、果肉が薄いアーモンドは、核の殻を割って中の仁を食用とします。そのため日本で身近に売られている杏仁豆腐は、高価な杏仁霜(キョウニンソウ※杏仁を粉末に加工したもの)に代わってアーモンドを原料としたものが一般的です。

杏仁と桃仁

 杏仁によく似た生薬として、同じようにモモの種の仁を乾燥させた桃仁(トウニン)があります。見た目はたいへんよく似た生薬ですが、まったく別の薬効を持っています。

 杏仁が咳止め薬として使用される一方、桃仁には駆於血作用(血のめぐりをよくする)や緩下作用があり、女性の漢方によく使用されています。

 杏仁と桃仁、実際に見分けるのはなかなか至難の業ですが、一般的には杏仁の方が幅広でぷっくりしており、桃仁はやや細長い楕円形のものが多いです。興味深いことにこの違いはそれぞれの植物の葉の形にも一致します。

杏仁と桃仁2

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 花の色、形、枝への付き方、葉の出方など、桜の親戚もじっくり観察してみると奥が深いです。いつもの「お花見」が難しい時代、いつもと違う視点から花を楽しんでみるのも良いかもしれません。

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