「香りゆかりとサクふわ秋色コロッケ:心と体がほっとする病院食」
やさしい味付けと彩りのバランスが、目にも心にも食欲を運んでくれます。病院食というと「味気ない」という印象を持たれがちですが、当院の献立は家庭的な温かみと栄養バランスの両方が整った一食です。
このお食事は隣接するサービス付き高齢者向け住宅、ショートステイやデイケアでも提供されています。入院中の方だけでなく、在宅生活を送る高齢者や通所利用者様も、同じ美味しさと健康サポートを受けられるのです。
① 湯気のむこう、今日のひと皿
本日のメインは、かぼちゃとさつまいものサクふわコロッケ。中はほっくり、衣は軽く、ほんのり甘さが広がります。主食はゆかりご飯。しその香りで食欲をそっと後押しします。汁物はみそ汁、小鉢にいんげんのピーナッツ和え、食後に果物のデザートを添え、口当たりさっぱりと締めます。
② からだに届く やさしい栄養の手紙
かぼちゃ・さつまいもは食物繊維とβ-カロテンが豊富。整腸と粘膜・皮膚の保護に役立ちます。いんげんはビタミンK・葉酸が含まれ、筋力維持のためのタンパク質源としてピーナッツの良質な脂質とビタミンEが加わります。みそ汁は発酵由来のうま味で塩分控えめでも満足感が得られ、温かさが消化を助ける一品。ゆかりご飯は香りと酸味で食欲の落ちやすい時期にも食べ進めやすく、果物のビタミンCが食後をさっぱり整えます。
よく耳にする食物繊維は「腸から届くやさしい手紙」。お通じや血糖、コレステロールのコントロールをそっと助けます。今回は食物繊維を掘り下げます。
種類とはたらき
- ・水溶性(オート麦・海藻・果物など)…ゼリー状になって糖や脂質の吸収をゆるやかに。
- ・不溶性(野菜・きのこ・豆・全粒粉など)…便のかさを増やし、腸の動きをサポート。
期待できる良いこと
- 1 お通じを整える(便秘も下痢もバランスを助けることがあります)
- 2 食後血糖の急上昇をおだやかに
- 3 LDLコレステロールの低下に一役(胆汁酸をキャッチ)
- 4 腸内細菌が短鎖脂肪酸を産生→腸のエネルギー源・バリア機能の維持に
- 5 満腹感アップで食べ過ぎ予防
上手なとり方(実践ヒント)
- ・毎食、野菜・きのこ・海藻・豆をひと握り追加
- ・主食に押し麦・雑穀を1/3〜1/2混ぜる
- ・皮ごと食べられる果物をよく洗って皮ごと
- ・コップ1杯の水分も一緒に
注意点
- ・急に増やしすぎない(張り・ガス対策に少しずつ)
- ・腸の狭窄・重い便秘、透析中や厳格なカリウム制限の方は主治医・管理栄養士に要確認
- ・アレルギー(ナッツ・穀物など)に注意
似た働きのある薬もありますので、どうしても食物繊維が取りづらい方は自己判断を避け、必要に応じて主治医にご相談ください。
③ 季節とからだが語り合う ― 医師のまなざし
季節の変わり目は“脾(消化)”をいたわる時期。甘味で温に傾くかぼちゃ・さつまいもは、弱った胃腸をやさしく支えると東洋医学では考えます。温かな汁物で胃を温め、香りのよいしそを添えると、“気”の巡りがほどけて食欲の波もなだらかに──そんな配膳です。
私はしそが大好きです。食卓にふわりとのる香りは、最初の一口を背中押ししてくれます。中医学では、しその葉を「蘇葉/紫蘇葉」と呼び、
- ・気の巡りを整え、胸や胃のつかえを和らげると伝えられ、
- ・風邪のひきはじめに汗を促す目的で用いられることがあるとされています。
また、しその種(紫蘇子)は処方の一部として咳や痰に配慮する目的で使われることがあります(例:香蘇散、半夏厚朴湯、蘇子降気湯などの構成生薬の一つとして)。いずれも伝統的な用い方の範囲であり、感染症や中毒の予防・治療を保証するものではありません。衛生管理や医療的対応がまず大切なことをご理解ください。
食卓では、しその芳香が「食べやすさ」を高め、温かい汁物が消化のリズムを整える助けになります。小さな香りの灯を一つ添える──それだけで、体と心に流れる季節の風が少しやわらぎます。
④ ひとさじ薬膳、やわらぎの知恵
- ・かぼちゃ・さつまいも:甘味/温~平性—胃腸を補うとされています
- ・いんげん:甘味/平性—気を養う食材です
- ・しそ(ゆかり):辛・芳香/温性—気の巡りを助けると伝えられるとされています
⑤ 心にそっと置くひと言
衣の「サクッ」、芋の「ほくっ」。小さな音が、今日の自分を労う拍手になります。そして、ゆかりご飯はしそ好きの私にとって小さなご褒美でもあります。
⑥ ご高齢の方へ、小さな伴走のことば
暑さの名残で食欲が揺らぐときは、一口小さく・よく噛んで。コロッケはソース控えめに、みそ汁は具を先に口へ。ナッツ類にアレルギーのある方はピーナッツ和えを回避しましょう。糖尿病で炭水化物量を調整中の方は、ご飯やコロッケの量を半分にし、代わりに小鉢や汁の具を増やすのも方法です。体調に不安があれば必要に応じて主治医にご相談ください。
⑦ おわりにー風の挨拶、健やかさを願って
朝夕の風に季節の移ろいを感じます。どうぞ皆さま、今日も穏やかな食卓で健やかにお過ごしください。
【注釈】
各個人様にお出しするお食事は、体の状態や医師の指示により内容が変更される場合がございます。あらかじめご了承ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状や治療については必ず主治医にご相談ください。