「体に軽く心に満ちる:ほうれん草のごま和えの日」
やさしい味付けと彩りのバランスが、目にも心にも食欲を運んでくれます。病院食というと「味気ない」という印象を持たれがちですが、当院の献立は家庭的な温かみと栄養バランスの両方が整った一食です。
このお食事は隣接するサービス付き高齢者向け住宅、ショートステイやデイケアでも提供されています。入院中の方だけでなく、在宅生活を送る高齢者や通所利用者様も、同じ美味しさと健康サポートを受けられるのです。
① お膳に広がる今日の景色
ご飯、白身フライとクリームコロッケ(ホワイトソース・彩り野菜添え)、やさしいコンソメスープ、ほうれん草のごま和え、果物のデザート。サクッと香ばしい主菜に青菜の香り、すっきりしたスープがよく合います。
② からだを整える栄養のハーモニー
白身魚は脂が少ない良質なたんぱく源、クリームコロッケの乳はカルシウム補給に、ほうれん草と胡麻はミネラルと食物繊維を、果物はビタミンCを届けます。揚げ物は油をよく切り、塩分は控えめ。スープとお茶で水分も十分に。
―鉄分のはたらき―
鉄は主に赤血球中のヘモグロビンとして酸素を運ぶ要のミネラル。筋肉ではミオグロビンとして酸素供給を支えます。健康な成人で体内総量は約3~4g。約70%がヘモグロビン、残りはフェリチンなどの貯蔵鉄として肝臓・脾臓・骨髄に蓄えられ、まず貯蔵鉄が減ってから不足が進むと鉄欠乏性貧血が起こります。
―食品と吸収―
鉄には吸収されやすいヘム鉄(レバー、赤身肉、かつお・まぐろ、あさり・しじみ等)と、吸収率が低めの非ヘム鉄(ほうれん草、小松菜、豆腐・納豆、ひじき、切り干し大根、ごま、ナッツ等)があり、ビタミンCやたんぱく質と一緒にとると特に非ヘム鉄の吸収が高まります。
―摂取量の目安(日本人の食事摂取基準2025)―
18~74歳女性(月経なし)6.0mg/日、男性7.0~7.5mg/日。月経のある女性は10.5~11mgが推奨されます。実生活では不足しやすく、とくに若年女性や高齢者で貧血が目立ちます。サプリの長期大量摂取は避け、体調不良や貧血症状(疲れやすい、動悸、息切れ等)があれば受診を。
―高齢者の貧血と悪性腫瘍の関係―
高齢者では貧血の頻度が上がり、世界の統合解析では約24.6%と報告されています。地域在住の65歳以上で約1~2割という報告もあります。 とくに鉄欠乏性貧血は慢性的な消化管出血が背景にあることが多く、消化器悪性腫瘍を念頭に内視鏡などで評価することが重要と国内レビューで示されています。 また、大腸がん患者の11~57%に貧血(とくに鉄欠乏性)がみられ、初発症状となることもある(約15%)ため、原因不明の鉄欠乏では消化管精査が推奨されます。 古い報告ながら、高齢者貧血の原因として悪性腫瘍が3割前後を占めたとの国内データもあります。
―今日の献立でのポイント― 白身魚(たんぱく質)+ほうれん草・胡麻(非ヘム鉄)+果物のビタミンCの組み合わせで、非ヘム鉄の吸収を高めつつ不足予防に役立つ一皿です。めまい・倦怠感・息切れなど貧血の症状が続く方や高齢の方は、消化管を含む原因検索が必要になる場合があります。必要に応じて主治医にご相談ください。
③ 季節に寄り添う医師のまなざし
―“青菜は血を補う”ってどういうこと?―
ほうれん草や小松菜などの青菜には、血液を健やかに保つうえで欠かせない鉄分や葉酸が豊富です。これが東洋医学の言葉でいう「補血(ほけつ)」、つまり“血を養う”という意味合いにつながります。
―薬膳の考え方―
薬膳(東洋医学)では、鉄分や葉酸など造血に関わる栄養が多い食材を「補血」の食材と位置づけます。ほうれん草や小松菜は代表的な補血野菜で、日々の食事に取り入れることがすすめられます。 ※東洋医学の表現は養生の比喩であり、医学的判断を代替するものではありません。
―現代栄養学での根拠―
ほうれん草は約2.0mg/100g、小松菜は約2.8mg/100gの鉄を含み、野菜としてはトップクラス。どちらも葉酸が多く、赤血球の新生を助けます。さらに小松菜はシュウ酸が少なめで、鉄吸収の妨げが比較的少ないのも利点です。
―効率よく吸収するポイント―
青菜に含まれる鉄は非ヘム鉄で吸収率が低めですが、ビタミンC(果物、ピーマン、柑橘ドレッシングなど)やたんぱく質(肉・魚・大豆)と一緒に摂ると吸収が高まります。 →今日の献立なら、白身魚(たんぱく質)+ほうれん草(非ヘム鉄)+果物(ビタミンC)+胡麻(ミネラル)の組み合わせで、補血を食卓で後押しできます。
―まとめ―
青菜は“血を養う”食材として、鉄分と葉酸の重要な供給源。食べ合わせを工夫すれば、貧血対策や体力維持に役立ちます。体調に不安がある場合や治療中の方は、必要に応じて主治医にご相談ください。
④ 心に灯るひと匙の幸せ
湯気と衣の香りが、食卓に小さな安心の灯りをともします。ほうれん草のごま和えは絶品です。
⑤ 季節を結ぶしずかな挨拶
寒暖差のある日々、どうぞ温かく。皆さまの健やかな毎日を心よりお祈りします。
【注釈】
各個人様にお出しするお食事は、体の状態や医師の指示により内容が変更される場合がございます。あらかじめご了承ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状や治療については必ず主治医にご相談ください。