桃の節句に願いを込めて。春の訪れを祝う「ひな祭り海鮮ちらし」御膳
やさしい味付けと彩りのバランスが、目にも心にも食欲を運んでくれます。病院食というと「味気ない」という印象を持たれがちですが、当院の献立は家庭的な温かみと栄養バランスの両方が整った一食です。
このお食事は隣接するサービス付き高齢者向け住宅、ショートステイやデイケアでも提供されています。入院中の方だけでなく、在宅生活を送る高齢者や通所利用者様も、同じ美味しさと健康サポートを受けられるのです。

① からだにやさしい本日の一膳
ひな祭りの食卓の主役といえば、やはり彩り鮮やかな「海鮮ちらし寿司」ですね。 お皿の上には、ふんわりとした錦糸卵の黄色、いくらの鮮やかなオレンジ色、桜でんぶの淡いピンク色、そしてほうれん草の緑色が美しく散りばめられています。お花のような形に飾り切りされた「れんこん」も添えられており、まるでお皿の上に春のお花畑が広がっているかのようです。
温かい汁物は「おくらの具だくさん味噌汁」です。 お椀の中には、星の形をしたおくらがたっぷりと浮かんでいます。私もオクラが大好きなのですが、この可愛らしい星の形を見ると、なんだか少し心がほっこりとほころびますね。
副菜には、優しいお出汁の味がじんわりと染み込んだ「煮物」をご用意しました。 がんもどき、お花の形に型抜きされたにんじん、そしてきぬさやが、ふっくらと柔らかく炊き上がっています。
そして、食後のお楽しみのデザートは「抹茶のババロア」です。 なめらかな抹茶のババロアの上に、ほんのり甘い小豆がのっており、和の風情を感じられる優しいひと皿となっています。
② エネルギーと栄養のバランス解説
続いて、このお食事が皆様の健康にどのように役立つのか、栄養の目安についてお話しさせていただきます。
まず、海鮮ちらし寿司に使われている「お酢」には、胃酸の分泌を促して食欲をアップさせる働きがあると言われています。お体が疲れを感じたときにも、お酢のさわやかな酸味は疲労回復の助けになってくれます。
おくらの具だくさん味噌汁は、お腹にとても優しい一品です。おくらのネバネバとした成分は、ペクチンをはじめとする水溶性食物繊維です。腸内環境を整え、お腹の調子を穏やかにサポートしてくれる働きがあると言われています。お味噌汁として温かい状態で召し上がっていただくことで、体を内側から温めながら、お野菜の栄養をまるごと摂り入れることができます。お味噌汁として温かい状態で召し上がっていただくことで、体を内側から温めながら、お野菜の栄養をまるごと摂り入れることができます。
煮物は時間をかけて柔らかく煮込まれており、胃腸に負担をかけずに栄養を吸収するのにおすすめです。にんじんに含まれるビタミンなどは、体の免疫力を保つためのサポートをしてくれるとされています。食後の抹茶に含まれるカテキンは体をサビから守る働きがあると言われ、小豆の食物繊維はお腹の調子を整えるお手伝いをしてくれます。
③ 季節と食養生—本日のメニューを読み解く
ここで少し、東洋医学や季節の観点からも、今回のお食事についてお話ししてみたいと思います。
東洋医学において、春という季節は、植物が芽吹くように体のエネルギーも外に向かって動き出す時期と考えられています。しかし、寒暖差などによって「肝(かん)」と呼ばれる自律神経のバランスを司る部分に負担がかかりやすい季節でもあります。
そんな春の時期に、意識して取り入れたいのが「酸味」のある食べ物です。 東洋医学において、「酸味」と「肝(かん)」には深い関わりがあると考えられています。ただし、酸味の効果は体質や状態によって異なり、適度な量を取り入れることが大切とされています。
ひな祭りにちらし寿司が食べられてきた理由は、えびの「長寿」、れんこんの「見通しが良くなる」など、縁起の良い食材が多く使われているためとされており、春のお祝いの食卓に彩りを添えてきた日本の大切な食文化です。また、ご飯と野菜、魚介を一度にバランスよく摂ることができる、栄養面からも優れた一皿です。
食べることは、単に体に栄養を取り込むだけではありません。目の前の彩り豊かな食事を味わい、「綺麗だな」「おいしそうだな」と感じるその喜びが、心を穏やかに癒やしてくれます。心が満たされることは、結果として体が本来持っている力を引き出すサポートにもつながるのではないかと、日々診療にあたる中で感じています。
④ 食卓からの小さなエール
ご高齢の皆様におかれましては、この時期、朝晩の冷え込みや日中の暖かさといった気温の大きな変化によって、なんとなく食欲がわかない日もあるかもしれません。
そのような時は、「全部食べなきゃいけない」と無理をする必要は決してありません。食べられるときに、ご自身のペースで少しずつ口にしていただければ大丈夫ですよ。
今回の献立は、食欲が落ちがちな時でも、お酢のさっぱりとした風味でお箸が進みやすくなるよう工夫されています。ちらし寿司のご飯もふっくらと柔らかめに仕上げております。煮物も噛み切りやすく、お口の中でほろりと崩れる柔らかさです。
もし「今日はおかずだけ」「つるんとしたデザートだけなら食べられそう」という日があれば、それでも全く構いません。ご自身の体調の声に耳を傾けながら、ゆったりとした穏やかな気持ちで、お食事の時間を楽しんでいただけたら嬉しく思います。
⑤ 皆さまの健やかな毎日に寄せて
ひな祭りは、皆様の無病息災を願う大切な日でもあります。健やかに育つ命を言祝ぐように、皆様のこれからの日々が、春の陽だまりのように穏やかで笑顔あふれるものとなりますよう心よりお祝いし、お祈り申し上げます。まだまだ朝晩は冷え込む日もございますので、どうぞお体を大切になさってください。
【注釈】
※各個人様にお出しするお食事は、体の状態や医師の指示により内容が変更される場合がございます。あらかじめご了承ください。
※本記事は一般的なお話であり、個々の診断や治療に代わるものではありません。食事制限や気になる症状がある場合は、必ず主治医や担当スタッフにご相談ください。

















